(269) 選択肢のない車選び

the cat walk
No.269 2015.2.18



<選択肢のない車選び>




ドナルド・バード(tp)は車好きだった。
ジャガーMKⅡにもたれてポーズを取る本作「The Cat Walk(Blue Note 4075)」の他に、デューク・ピアソン(p)がゴスペル調コーラスをアレンジした珍盤「A New Perspective(4124)」のジャガーEタイプや、ジャッキー・マクリーン参加の「Off To The Races(4007 この記事のKに間もなく長男が誕生する。すぐにも子供が欲しいと言っていたのが3年かかった。良かったね。その子が成人する頃君は、既に現在の私とおなじくらいの歳になっている。なにかと大変だろうが頑張るしかあるまい)」におけるメルセデス190SL等、車とツーショットのブルーノート盤が三枚ある。

本作ではペッパー・アダムス(bs)との異色二管フロントとフィリージョー(ds)が特に効いている。
トランペットとバリトン・サックスのアンサンブルが新鮮で面白い。
それにやはり、フィリージョーが叩くと空気感が違うのだ。
冒頭のデューク・ピアソン作の美しいオリジナル「Say You're Mine」など、ピアソンの曲が大半を占めるが、タイトル曲は本作リーダーであるドナルド・バードのオリジナル「The Cat Walk」とした。
曲の出来では「Say You're Mine」に及ぶべくもない。
比肩する曲なら当然そちらを冒頭に置いた筈だ。

ジャズ評論家に詳しい人はいないらしく、この事に触れる記事を見た事がないけれど、「The Cat Walk」とは猫が通るような狭い道とか曲調とかいう事よりも、先ずはネコ足と言われたしなやかなジャガーの走りを称賛したものだと思われる(尚、現在のジャガーはレンジ・ローバーと共にフォードを経てインドのタタ・モータース傘下にある。もうかつてのようなネコ足ではない)。

このジャガーMKⅡは当時ドナルド・バードの愛車だった可能性があり、つまり結構稼いでいたのではないかと想像される。
本作が収録された1961年、ジャズがまだポップスの王道に君臨していたのだ。
それはビートルズが登場する直前の事だった。
後年ジョン・レノンはサイケにペイントしたロールス・ロイス・ファントムVを乗り回し、エスタブリッシュメントの間で物議を醸すこととなる。

かつて男はたいてい車好きと相場が決まっていた。
それは一丁前の男なら煙草くらい吸うものと決められていたのと、あまり違わない発想だったのかもしれなかった。
私自身なんとなく自分もそうなのかな、と思った時期もあったのである。
だが最近の風潮はどうだろう。
特に若者が車に興味を失ったと言われ久しい。
私もなんだか分からなくなった。
実際のところ、私はそんなに車が好きではないのかもしれない。
しかしそれは現在どうも魅力的な車がない、という事とまったく無関係ではないように思う。
思えば昔の車は、哲学と言うと大袈裟だが、拘りを感じさせるオーラを放つものが少なくなかった。
今はどうだろう。
無国籍化が進み、何が何やらすっきりしない。

Q7とトアレグとカイエンが実は基本的に同じ車だ、といった話を聞くとやはりどこかに釈然としないものが残るのは私だけではないと思う。
アウディをスペインで製造していたり、ポルシェをフィンランドで製造していたり、BMWをアメリカや南アフリカやあまつさえ中国で製造していたり、もうわけがわからなくなってもいる。
どこで製造してもベンツはベンツです、都合上そのように言いたいのは分かる。
でもね、シャンパーニュ地方で作られた発泡ワインだけがシャンパンです、という非常に納得しやすい方の話とはどのようにして整合性を保つのでしょうか。

そんな現代自動車事情のなかで、先日妻の車を買い替えた。
どちらかと言えば消去法で無理やり選んだのだった。
そうこうするうち、今度は私が普段仕事等に使う車の更新時期がせまっている。
しかしながら、はっきり言って買いたい車がないのだ。
多分既にそういう歳なんだろう、というのは確かにある。
今使っている車に私は何の不満もない。
そしてこれを凌ぐ車を思いつかなかった。
それならいっそ最後までこれでいくか、そのようにも思った。

それがここへ来て急浮上してきた車がある。
ジープの「Wrangler」という車種だ。
JBLのドライバーとレビンソンのアンプ、それに空母と戦闘機とイージス艦を除き、私はアメリカの工業製品をまったく信用していない。
万一これを買えば間違いなく様々な、それも我が国の車にはあり得ないような下らないトラブルにきっと見舞われるだろう。
だがWranglerに私は、今の車の殆どが失ってしまったある種の矜持を感じるのである。
ひょっとすると私はこれを人生最後の車にする可能性がある。
もしも徳大寺さんがご健在で私の友人だとしたら何とおっしゃるかな。




Wrangler1.png











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Re: No title

札幌の徳大寺さん、貴殿ならきっとそのように言ってくれるだろうと思いました。
なんかがっつり背中を押された気がします。

東海林氏のこと、非常に残念でした。
仕事の関係で昔数度お会いした事を思い出しました。
どことなく飄々とした、爽やかな男でしたね。
おそらくは最後まで、そんなご自分のスタイルを守ったのではありますまいか。

自分の時もそうありたいものです。
飄々と爽やかではとてもありませんが。






Re: 移動手段

MKさん、結構ワイルドなところにお住まいなんですね。
もちろん私のところも凄いですよ。
特に我家は標高の高い場所にあって雪深く、
普通の乗用車ではとても乗り切れない事が一冬に何度もあります。
ちょっと郊外へ行き、夜中に吹雪の中スタックなどしたら、命の危険すらあります。

でも、ここのところ次第に暖かくなってきました。
夜明けも早くなりつつあります。
もうじき春ですね。
ほっとします。





No title

ステキです!
ツイードにウエスタンブーツを合わせるみたいな「はずしのカッコよさ」 あなたが乗ってる姿を想像するだけでワクワクします。
そしてあなたの仰る通り信じられないようなトラブルが酒席で披露されるでしょう。

移動手段

皆似たり寄ったりのハイブリッドが幅を利かせる自動車。
当地では、車が無いと生活が成り立たない田舎ゆえ、18歳になる若者の殆どが運転免許証を取ります。
私が車に求めるのは移動手段としての役割だけ。
但し、どんな状況でも天候でも問題なく使えることが大事。
したがって、4輪駆動車となるわけで、現在の車は軽のクロスカントリータイプに乗っています。
運転中、ユーミンとエバンスとリヒテルが聴ければ・・・・。
「Wrangler」いいですねぇ。
私の車はジープもどきの更にOEMバージョンですから(笑)。
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