(232) もうひとつのRTF

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No.232 2014.11.20



<もうひとつのRTF>




とにかく売れないジャズのレコード、という話を何度かした。
だから枚数で稼ぐ、いや枚数が多すぎるから一枚一枚がハケない、どちらも当たっているのだろう。
現在日本で出る新譜など、どれも良くて千単位の売れ行きで、万いったら大ヒットなんだとか。
そんなジャズのレコードで、ダイアナ・クラールを除けば、驚異的ヒットと言えるのが当ブログNo.95の「リターン・トゥ・フォーエバー」だ。
ミリオンセラーとなり、殺到するリクエストがジャズ喫茶のバイトを閉口させた。
マイルスのレコードだって、こんなに売れたのはない。

好き嫌いはともかく、確かに新しかった。
それだけは誰にも否定できまい。
そしてただ新しいだけでなく、我慢しながら聴いていた層に優しかった。
そんな時代があった。
教養としてジャズを学ぶためにジャズ喫茶へ通う時代。
ジャズ喫茶は謂わば街の道場だった。
小難しいジャズを散々聴かされ、泣きそうになっていた「ファン」にとって、リターン・トゥ・フォーエバーは陳腐だがまさに一服の清涼剤だったのだ。
こんなに分かり易くていいんだ。
聴いて楽しくてもいいんだ・・・
「ジャズファン」とはどうにも気の毒な人たちであった。

苦悩から解放されたかのようにどんどん買う彼らを見て、ミュージシャンも驚き気付いた。
「売れるのか、こうやれば」
ある意味である種の時代の扉を開いた作品だと言っていいと思う。
その点で、同じようにジャズ喫茶従業員を悩ませたNo.94キース・ジャレット「ケルンコンサート」とはまったく違う。

本作は「もう一つのリターン・トゥ・フォーエバー」と言われる。
チック・コリア(p)、スタンリー・クラーク(b)、アイアート・モレイラ(perc)が参加し「La Fiesta」を演った。
私が所有するのは輸入盤のLPレコードだが、後日CD化に際してボーナストラックに「Crystal Silence」が入ったと聞いている。

リーダーのスタン・ゲッツは何かと評判の良くない男だった。
特に日本人が嫌いだったらしく、来日公演ではひどい手抜き演奏をしたと批判された。
名うてのジャンキーだったから、日本でヤクが手に入らず調子が出なかっただけかもしれないのだが。
税関を突破して持ち込むのは、きっと簡単ではないだろう。
あのポール・マッカートニーが税関で大麻を押さえられ、強制送還されたのを覚えておられよう。

プレースタイルがクールだった。
すかしてる、と言っても過言ではない。
時にアルトかと思わせる音使いをした。
そんなゲッツが吹きに吹いた。
ゲッツの最も熱い演奏が「La Fiesta」だ。
チック作のこの曲が、ゲッツをそんな風に変身させたのだ。
トニー・ウイリアムス(ds)の参加もデカいと思う。
だが、なぜか先に発売されたチック作品の大ヒットで、本作はジャズ史の闇に埋没した。
「リターン・トゥ・フォーエバー」の大評判をゲッツはどんな思いで見ただろう。
本作の録音は1972年1月、「リターン・トゥ・フォーエバー」の、わずかだが一か月前だった。


















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Re: 再びこんばんは(^^)

ええ、お蔭で楽しく疑似買い物が出来ました。

再びこんばんは(^^)

私の代わりに楽しく悩んで頂いてありがとうございます。(^^ゞ
アルバム購入の参考にさせて頂きます。(*^^)v

Re: こんばんは(^^)

文伽さん、おはようございます。

歳のせいなのでしょう、こんな時間(六時前)にもう活動しています。
もちろん時節柄まだ真っ暗です。

スタン・ゲッツのCDを一枚買う。
そんな楽しい想像をしてみました。
曲で選べば「For Musicians Only」を買うでしょう。
でもこれは三管で、どちらかといえばディジー・ガレスピー(tp)がリーダーです。
ゲッツで一番有名なのは「Stan Getz Plays」かもしれません。
特にジャケットが。
でも中身も、ギターが入りますが、ゲッツのワンホーンで面子もいいなあ。
今回お話しした「Captain Marvel」のLa Fiestaの演奏は凄いですが、
一枚という事になると考えてしまう。
迷うなあ。
迷った挙句に私はきっと「West Coast Jazz」を買います。
このジャケットが一番好きだから。
手元に一枚置くなら、お気に入りのジャケットがいいですから。

こんばんは(^^)

私がスタン・ゲッツのプレイを初めて聴いたのは、
アメリカの女優で歌手のシビル・シェパードと共演したアルバムでした。
もちろんシビルのヴォーカルが聴いてみたくて買ったCDでしたが、
何度も聴いているうちに
「シビルもいいけど、このバックのサックスもカッコイイなぁ」
なんて思い始めまして(笑)。
…カッコイイ訳ですね、スタン・ゲッツだったなんて。(^^ゞ
知らないというのは恐ろしい(笑)。

いつかスタンのアルバムも1枚買いたいですね~。(*^^)v
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