(211) 一世一代

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No.211 2014.10.10



<一世一代>




何故か姉妹で苗字が微妙に違う、森田葉月&森川七月のデビュー盤である。
芸名であるから(本名 姉:美佳、妹:三七子)意図的なものだ。
理由はわからない。
本作が2006年メジャーレーベルのGIZAから発売された時、二人は25歳と20歳の若さだった。
なのにジャズのスタンダードを歌いメジャーデビューか。
これには想像通りの生い立ちが語られている。
幼い頃から、家で両親が掛けるジャズを聴いて育った、というのである。
もっとも二人はジャズだけを歌っていたわけではない。
七月は15の頃からPUPUPIDOというコーラスグループで、大阪のライブハウスに出ていた。
その時のレパートリーにはジャズやロックやR&Bもあったが、「なごり雪」だとか「君をのせて(天空の城ラピュタ)」なども歌っていたと、インタビューで語っている。
要するに気に入った楽曲を片っ端から歌ったのであろう。
そんなこともあってか、彼女らの音楽は「カジュアルなジャズボーカル」とされた。
それまでの堅苦しいジャズボーカルと一線を画す。
そのように言うのはレコード会社である。
私はどのようなジャズボーカルを聴いても、堅苦しく感じた事など未だかつて一度もないのだが。

本作はライブ盤である。
とはいえ、一度の公演を網羅したものではなく、複数のライブからの抜粋である。
エンジニアが良い仕事をした。
ツギハギ感がまったくない。
そして音に統一性があるのだ。
更に録音そのものが非常に良い。
私は本作をして、あらゆるジャンルを含むライブ録音の、トップ10に入れても良いと思っているくらいだ。

ジャズボーカルというと、一般的なイメージとしてはちょっと陰のある妙齢の女性が、様々な人生経験を歌に託して表現するといった感じになる。
20歳そこそこのおねーさんにはちと荷が重いよと。
そこら辺のニュアンスを恐れ「堅苦しくない、カジュアルな」ジャズボーカルであるとしたかったのだろう、レコード会社は。
確かに彼女らの歌声は若々しく透明感があり、これはこれで十分魅力的だ。
自分もこのライブ会場に居合わせたかったとすら思わせる訴求力がある。
本作では姉の葉月と妹七月が交互にリードボーカルを取る。
ところが葉月がソロで歌うのに対し、七月のソロは一曲のみで、それ以外は姉がコーラスを付けている。
この時点での力関係がそういう事だったのだろう。

翌2007年、森田葉月はソロ名義でアルバムを出した。
「for the next generation」と題されたソロアルバム、今度はスタジオ録音であった。
これは彼女にとって卍盤であった筈だ。
普通、ライブ盤でデビューというのは珍しい。
ライブはごまかしが効かない筈だからだ。
そのデビューライブである程度の評価を得、満を持してのスタジオ録音であった。
ただ、ソロといっても妹の七月がコーラスで参加しており、実際の構成は前作と大差ないが、より緻密な作り込みが可能なスタジオで、前作を上回る作品が生まれる筈であった。
少なくとも私はそのように思い、次作を聴いたのだ。
しかし実際は、アルバムの出来として随分な差がついてしまっていた。

前作ライブのほんわかしたホールトーンが乗った声でなく、オンマイクでシビアに拾われた葉月の声。
無論下手ではない。
学園祭レベルよりは上だ。
それは間違いない。
でもそこまで。
この程度ならクラブ歌手やライブハウスに腐る程いる。
これが前作と同じ歌手の作品か?
そもそも音が悪い。
こもったような魅力のない声だ。
前作の初々しい透明感もどこかへ行ってしまった。
恐らくはこれが彼女の真の姿、実力なんだろう。
ライブ盤ではそれが、ホールトーンに誤魔化されて違うものに聞こえたのだ。
色の白いは七難隠す、と言うではないか。
音の良いのも同様ということだ。

それから間もなくのこと森田葉月はGIZAを離れ、「つぐめ」と名を変えた。
何があったか知らない。
だが、間違いなく何かがあったのだ。
「つぐめ」とは次女の古い言い方で、母親は彼女をそう名付けようとしたのだそうだ。
結局周囲に反対され「美佳」となったが、彼女らは最低でも三姉妹なのだろう。
今「つぐめ」は33歳になった。
妹の七月は29歳でGIZAに残っている。
それぞれに音楽活動を続けているようだ。
奇跡のライブ盤が二人にとって一世一代の名盤となってしまうのか。
わからない。
私は「for the next generation」以降の二人をフォローしていないからだ。
一発屋は世の中に沢山おり、それはジャズの世界とて例外ではない。
だが彼女らがジャズを歌い続け、私がジャズを聴き続け、いつか経験と年月が二人を本物のジャズシンガーに育て上げる日が来るかもしれない。
その歌声はきっとまた私の耳にも届くだろう。












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