(156) 島 裕介 名曲を吹く

島裕介1
NO.156 2014.7.4



<島 裕介 名曲を吹く>



横浜・横須賀の旅も終わりが近づいていた。
この日は夕刻より、赤レンガ倉庫「MOTION BLUE YOKOHAMA」で渡辺香津美のライブに予約を入れていた。
MOTION BLUE は東京ブルーノートの経営らしく、そこに一抹の不安を覚えたが、渡辺香津美がジャズに帰って来たとのふれ込みであったので、この際行ってみることにした。
私はその前に「ちぐさ」へ、どうしてももう一度行きたいと思っていた。

ちぐさには一時過ぎに着いたので、もう営業を始めている筈だった。
だが、何やらどうも昨日と様子が違う。
店内に複数の男女が、それも立ったままで何かしているのがガラス窓越しに見える。
何だ?
入口ドアに張り紙があった。
「通常営業は18時半からです」
なんだと、今日はそれまで貸し切り?
その時間では渡辺香津美と被ってしまう。
老眼の目を凝らしてよく読むと、どうも何かイベントが行われるようだ。
妻と顔を見合わせた。
入ってみるしかない、彼女の目がそう言っていた。
私は恐るおそるドアを開け、入口付近で激しくジャジーなオーラを発する男性にきいた。
「あのー、予約とかしてないんですが、入れますか」
その人は意外とフレンドリーで、「どうぞどうぞ、2000円です」と快く飛込みの我々を受け入れてくれた。
元々狭い店内からテーブルや椅子を殆ど運びだし、わずかなスペースを作っている。
もしかして、ここでライブをやるのか?
我々はわずかに残された椅子に、少し所在無げな気分で腰かけた。
やがてレコード演奏が始まった。
どういう訳かレコード片面を通してかける事をせず、一曲のみ、それも超がつく有名曲ばかりが店内に流された。
これはこれで悪くない。
しばらくすると、隣に座っていた初老の人物が立ち上がり大声を出した。
「今日はレコードを聴くだけ?スケジュールとか言った方がいいんじゃないの?」
それはまるで、俺みたいなベテランのジャズ聴きはこんなヒットメドレーみたいなのは聴いてられない、そんな風に言っているように私には聞こえた。
こうした人は割とどこにでも居るもので、最早驚くことでもない。
レコードを一曲ずつかけていた若者が、マイクを持ち話し始めた。
「今日は1954年から65年くらいのハードバップの一番おいしいところをかけます。そして2時くらいからライブになります。これを2セットの予定です。では先日亡くなったホレス・シルバーの名曲をお送りしましょう」
ニカズ・ドリーム、ソング・マイ・ファーザー、トーキョー・ブルース・・・こういった所がかけられた後、一人の若者が立ちあがり言った。
「そろそろやります?」
物腰の柔らかな、落ち着いた立ち振る舞いの青年だった。
彼の立ち位置は私の目の前、わずか2、3メートル先である。
隣にピアニストの青年が座り、聞き覚えのあるイントロを引き始める。
やがて先の青年のトランペットがテーマを吹いて入ってくる。
「イパネマの娘」である。
演奏後、「ハードバップど真ん中のはずが、一曲目からまさかのボサノバでした」と、ブラジル・ワールドカップの事を少し話されたので、もしかしたら彼はサッカーファンかもしれない。

それはそれは、とても艶やかなトランペットだった。
私はこのような至近距離でトランペットを聴いたことがない。
音は大きい。
だが一つもうるさくない。
私はタンギングに少し特徴のあるそのトランペットに一発でやられた。
彼が島 裕介さんだった。
失礼ながら、私は彼を存じ上げなかった。
日本は広い。
そしてジャズ界は広い。




4横浜



いいものを聴いた。
それも思いがけず聴かせていただいた。
やがてファーストセットが終わった。
本当にそれは、あっという間の事だった。
私は島さんの演奏をもっと聴きたいと思った。
だが、残念ながらジャズに帰って来たという渡辺香津美ライブに間に合わなくなる。
仕方ないな。
我々は「ちぐさ」を出ることにした。
帰りがけにふと見ればCDが三枚並べられていいる。
島さんのCD?
それ以外である筈もない。
これは買うしかない。
それも三種類すべてだ。
長年のリスナーとしての経験が私をためらわせなかった。
これを買わずして何を買うというのだ。
そして私は島さんに声をかけた。
これは相当ためらいつつ。
「あのー、すみませんがサインなどして頂けないものでしょうか」
島さんは快くサインしてくれた。
それも三枚すべてに。
私は感激し、勢いにまかせて握手までしてもらったのである。
「オレ、AKBじゃないぞ」
もちろん彼はそんなそぶりなど少しも見せはしない。
これらのCDは家宝になるだろう。

帰宅後毎日聴いている。
私は本作を、自信を持って全力プッシュする。
年季の入ったジャズファンでなくとも、きっと感動するはずだ。
そしてジャズをあまり聴いたことがない、という人でも。
そういう人はまず、「INK BLUE RHAPSODY」というボーカルものを是非聴いてもらいたい。
彼の作曲によるものだ。
あまりのかっこよさに言葉を失う。














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Mr.ジャジー 殿

四日ほど旅行に行っており、頂いたメールに対応が遅れてしまいました。
もっとも、在宅していたところで、この「ブログ」というツールの全貌を把握しきれていないため、
迅速な返信ができなかった可能性は大いにあるところです。

その節は闖入者を寛大に受け入れて頂き、感謝しています。
あのようなイベントを多数主催されておられるようですね。
私などには到底出来ない事です。
先だっても島さんが11月に札幌へおいでになるのに合わせ、
知人の店でお願いできたらと画策しましたが、
双方合意にも関わらず、日程調整で断念したところです。
いやはや、こういった事は相当難しいものだと思いました。

先日のライブでピアノを弾いておられた木村イオリ氏は、
島さんのアルバムでも拝聴しました。
エレピ(フェンダー・ローズピアノ?)の音色の美しさに、その後ずっと魅せられています。
井上享志氏はそのお人柄(と申し上げるほどに存じ上げないにもかかわらず、生意気ではありますが)と共に、
演奏、特にナゼあの大きさのタイコからあのような低音を出せるのか、
という驚きに大変惹かれました。

またそちらへお伺いする機会があれば、
今度はじっくりお話をお聞かせください。
「Mr.ジャジー」さんの背後には、そう簡単には語り尽くせない、
男と女と音楽と、そしてまつわる人生の気配を濃厚に感じました。
私もそれくらいのことを察知する歳にはなったようです。

では、またお会いする日まで、お互い壮健でありますように!


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バロン ド バップ

Author:バロン ド バップ
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