番外編 ⑪ オリンピックがやってきた!

虹




<番外編 ⑪ オリンピックがやってきた!>





あれは高校一年の冬だった。
故郷の町はオリンピックで一気にインフラの整備が進んでいた。
私が住んでいた古い公務員アパートの目と鼻の先には地下鉄の駅が出来た。
戦前から地下鉄が走っていた東京なんかとは違って、地方の都市で地下鉄があるところなどまだほとんどなかった頃の事だ。
オリンピックが来なかったら、故郷に地下鉄が走るのはおそらく20年は先の話となっただろう。
たとえば京都に地下鉄が出来たのはそれから10年後の1981年のことであり、あの世界的な観光都市よりも私の故郷が二択的に優先された理由があるとすれば、それはオリンピック以外には考えられない。
もっとも、京都は地面をちょっと掘ると色々な時代の色々なものがざくざく出てきて、その都度工事がストップして発掘調査が始まるというから、そういった事が疎まれて後回しにされた面ももしかしたらあったのかもしれない。
なにしろ「刷毛で掘った地下鉄」と言われている。

いずれにせよ私は生まれてこの方、それまで地下鉄というものを見たこともなかったのは事実である。
それはいったい何なの?というわけで、寝静まる頃悪ガキを集めて見学に行った。
無論無許可である。
信じられないような話だが、当時地下鉄駅の建築現場は夜施錠も消灯もされていなかった。
我々は易々と地下への階段を進み、駅のホームに出た。
暗いトンネルが左右に続いていた。
資材を運ぶトロッコが軌道に置いてあった。
ここまで来たら乗ってみるしかない。
トロッコはハンドブレーキで停止しているらしかった。
そいつを解除すると、トロッコは静かに動き出した。
隣の駅との間に大きな川があり、その川底を通過するためだろう、隣の駅に向かって急激な坂になっていた。
むき出しの悪ガキを乗せた小さなトロッコが猛烈な加速を始めた。
「あわわ・・・・・」
「ガタガタガタガッ・・・・・!!!」
川底をクリアした地下鉄の軌道が再び上り坂となり、トロッコは徐々にスピードを落とすとやがて停止した。
そこは隣の駅のホームだった。
我々は地上に上がり、無言の行進をして元の場所へ戻った。
今夜のことは人に言わないほうがよさそうだと思った。
だが、誰もが無言だった。
しかし、全員が同じ気持ちだったらしく、その後この話が出たことはない。

オリンピック・・・なんて素敵な響きだろう。
私にとってオリンピックは東京でもなければロンドンでもない。
あの16歳の冬が私のオリンピックだ。
それはスキーのアルペン競技やジャネット・リンやアイス・ホッケーや、そしてジャンプだ。
だからレスリングが除外される事なんてどうでもいいことだ。

オリンピックは外人をたくさん連れてきた。
私は友人と街を流し外人を見つけては
「Can I Help You?」
と声をかけ通訳気取りだったが、たいてい
「No Thank You!」
と問題にされなかった。
それはそうだろう、あなたは外国であやしいガキに声を掛けられたらどうする?
私だったら相手にしない。
それでも私はがっかりなんかしなかった。
おそろしく気分が高揚していたのだ。

日の丸飛行隊が表彰台を独占した日は、ちょうどバンドの練習と重なっていた。
私は女の子とデートしていたが、仲間にはジャンプを見に行くとウソをついた。
それがあとでバレて散々吊し上げをくった。
まさかそんな劇的な結果になるとも思わず、デートで練習さぼるのはマズいからオリンピック観戦にしとけ、くらいの軽い気持ちだったが、それがああいう事になって、お前いいもの観たなあ、語ってみろとなった。
当然しどろもどろであるから、すぐバレるわけである。

今度2020年だかのオリンピックに東京が手を挙げている。
自分が生きているかどうかは別にしても、その事に私は何の関心も持ち合わせない。
私のオリンピックは、遠いあの冬の日に置いてきたのだろう。
それにきっと無理だよ。

ところで、あの時私をときめかせた冬のオリンピックは、1940年に実施される予定があったのだという。
それが日中戦争の影響で中止されたのだとか。
もしも戦争がなくて、オリンピックが史実の30年前に行われていたら、故郷の姿はきっと今とはだいぶ違ったものになっていたのだろう。
そしてそれから80年後、2020年に二度目のオリンピックがやって来たとしても、それらの事が私をあんなに熱くさせる事はおそらくなく、付随して起きるであろう交通渋滞なんかを冷めた口調で批判したりするのかもしれない。
名曲「虹と雪のバラード」を聴き、夜中にそんなことを考えている。
この曲を「人生の一曲」に加えながら。











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(107) 黄色い雪

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NO.107 2013.3.10



<黄色い雪>





絶頂期を過ぎたバド・パウエルの運指はもつれ、もう昔のようにいかない。
だが、ジャズ史上あまりにも有名な「クレオパトラの夢」が入った本作は名盤紹介の常連。
肩口から顔を覗かせるのは息子のジョンである(ただし、妻の連れ子)。
私は20年前までこの曲のタイトルを知らなかった。
ジャズ喫茶でバイトしていてそれはないだろう、と又してもお叱りを受けるだろうが事実だ。
ジャズ喫茶は有名すぎるこの盤を避ける。
実際私は本作を、バイト先はもとよりどこのジャズ喫茶であろうと聴いたことがない。
ジャズ喫茶というのはそういう所だ。
有名盤をバカにする。
そして、こんないいレコード知らないだろう?とマニアックな方向へ行く。
店側も客のリクエストも。
そんなジャズ喫茶は日本独特の文化でもある。
ジャズ発祥の地アメリカにも、現在ジャズが最も熱いというイタリアにもそうしたものはない。
私は極東の島国が生んだこのジャズ喫茶がたいしたものだと思うのである。
ジャズは必ずしも黒人と白人に独占されている訳ではない。
残念ながら言葉はわからないが、ジャズのスピリットは伝わって来るのだ。
そんな日本の更に辺境の北国に今日、あの国の影響と思われる黄色い雪が降った。
地球は、世界は繋がっている。
当然ながら海も繋がっているから、津波の引潮がもっていった物が太平洋を渡りアメリカ大陸の西海岸に流れ着きもした。
あの震災からもう2年。
当事者の嘆きが消えない一方で、その他の心の中であの出来事は確実に風化が進んだ。
それは仕方のない事だ。
被災者に生活があるように、その他の者にもまた生活がある。
だからことさら必要以上にわざとらしい事を言うつもりもないのであるが、今日ばかりはあの日の出来事を思い出し、改めて犠牲者のご冥福を祈ろうと思う。











番外編 ⑫ 明日香村

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<番外編 ⑫ 明日香村>





突然亀石が畑の真ん中に出現する。
ドラクエで魔物に遭遇するくらい突然だ。
周囲に人影はない。
この物体は想像以上に大きい。
しかし重機を持ち込めば移動できない事はないだろう。
現在の所有者が誰なのか知らないが、そうした事態を想定する様子はない。



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酒船石である。
これで酒を造った、薬を製造した、いや生贄台だ、と諸説あるが今も解っていない。
画像の左下が段になっているのが判る。
これは切り取られた跡だ。
工具の爪跡も生々しく残っている。
実は反対側も同様に切り取られている。
誰がいつ、何のためにそうしたのか、それも謎だ。
この物体も管理されている様子がない。
小高い岡の上に打ち捨てられている感じだ。
こんな事で良いのだろうか。



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酒船石がある岡の下にはこんな構造物がある。
地下水を誘導して第一の石桶から第二の亀型の桶に流したと考えられているようだ。
何のために?
説得力のある説明はなされていない。
岡の上はほったらかしだが、こちらは見物料も徴収して人の管理下にある。




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封土を失った古墳だという石舞台。
巨大である。
蘇我馬子を埋葬したのではないかと言われるが、もちろん判っていない。
この巨石をどうやってここへ運んだものか。
下にコロを敷いて運んだとの説もあるが、当時の道路事情を考えるとかなり難しいのではないか。



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石室に入ることもできる。
巨石が落ちてきたら・・・





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学術調査がなされた古墳の数少ない例、高松塚。
被葬者はわかっていない。
木棺の破片と一緒に遺骨の一部や刀剣の部品などが出土した。
残念ながら盗掘された後だった。



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古墳内石室の内側に描かれた壁画。
比較的保存状態が良い。



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すぐ近くに文武天皇陵がある。
「立入禁止 宮内庁」の立て看あり。
こちらが調査された事はない。
そして恐らく今後もない。








<付録>


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奈良は不思議な場所だ。
今では失われた古代の記憶の影を食い、
奈良公園で鹿が大繁殖している。
彼らは神々の化身か。

想像以上に奈良は田舎であった。




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この建物は寺社ではない。
今回の宿泊先、奈良ホテル。
100年以上前にホテルとして建造された。
奈良の歴史としては、ごく最近の出来事だろう。



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ホテルのすぐ下にある猿沢池。
何という事もない小さな、そして淀んだ水溜りだが、このように多数の亀が生息しており、日がな一日甲羅干ししている。
この状態でたとえ万年生きるのだとしても、あまり羨ましくはない。
この池の存在は奈良時代には既に認識されていた。
明日香村の亀石等との繋がりを感じるのは、私だけではあるまい。










(108) ANGEL EYES

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2013.3.20 NO.108



<ANGEL EYES>





イーデン・アトウッド、美貌のジャズ・シンガー。
まさに彼女のためにあるようなタイトル「ANGEL EYES」である。
本作は2013年の2月に発表された「ジャズ批評誌ジャズオーディオ・ディスク大賞2012ボーカル部門」において、見事金賞に輝いた。
喉の腫瘍切除後の彼女の声は、初期のものとは別人といって良いものとなったが、私は今の声質の方がむしろ好きだ。
確かに本作は現在までの最高傑作だと思う。

イーデンは音程が確かだ。
こう書くとプロのシンガーであれば当然との声が聞こえてきそうだ。
だが、意外とそうでもない。
悲しい事に特に我が国では。
でもまあ、音程はとりあえず当然とするか。
イーデンは更に抜群のテクニックとブルース・フィーリングを備えている。
ジャズシンガーなら、本当はそれも当然なんだけど。
ともあれ、私は過去1年に購入した作品中ではベスト3に本作を入れるだろう。
愛聴盤となりそうな一枚であるのだが、強いて言えばジャケットだけはもう少し何とかして欲しかった感がある。
これでは彼女の美しさを表現できていないし、何やら恨めしや的な鬼気迫るものがあり過ぎる。

美人で歌が上手く、180センチというモデル並みの肢体に恵まれた彼女であるが、人生必ずしもすべてがうまくいった訳ではなかった。
結婚し妊娠を望んだが、なかなか子宝に恵まれなかった。
それは特に珍しい話でもない。
しかし、不妊治療を決意した彼女は医者から驚愕の事実を告げられる。
心身ともに完璧な女性である筈のイーデンの性別は、あろう事か「男」だったのだ。
それ故だろうか、夫婦はほどなく離婚したという。

イーデンの魂の叫びを聴け。










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Author:バロン ド バップ
音楽がある限り

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